2005-12-09 おかえり、アメリカ牛

 

喉元過ぎれば熱さを忘れるのが人のならいである。
人の命を奪いかねないような大問題も、
騒ぎ飽きればそれだけのことらしい。

BSE、いわゆる狂牛病のおそれがあるとして
禁止されていたカナダ・アメリカ産の牛肉の輸入が、
いよいよ再開される。
新聞は、吉野家の味方なのか、
まるで牛丼用の肉が再び手に入ることを
これまでずっと慶賀すべきことのように報じていたが、
はたしてそういうものなのか。

そもそも輸入が禁止されたのは、
アメリカでBSEが発見されたからである。
だから輸入が再開されるためには、
何かが目に見える形で改善されて、
納得できるレベルまで
危険が減少していなければならない。
ところが実際はどうか。

どんな協議をしているのかは知らないが、
生後21ヶ月の牛からBSEが発見されているのに、
20ヶ月より若い牛なら検査をしなくても大丈夫、
などというのを尋常な判断と呼べるのか。

また危険部位を取り除けば安全だと言うけれど、
その危険部位除去について、
すでに千件以上も手続き違反が見つかっている
と報じられたのはわずか3ヶ月前のことじゃないか。

おまけにアメリカのずさんな検査を
日本から係員を送って査察しようとしても、
今の予算で査察できるのは、どうがんばっても
全体の3 パーセントくらい、ときたもんだ。
こういうお粗末な現状を前にして、
どこをどう解釈すれば「安全になった」と言えるのか。

そんなにアメリカ牛が心配なら食べなきゃいい、
と言われるかもしれない。
たしかにそのとおりだ。食べずにすむならそれでいい。
しかし、食べずにすますことは非常に難しい。

なぜなら、
JAS法で生産地表示が義務づけられているのは
生肉に限られており、
ひとたび加工肉となったものは
もうその素性を確かめることができないからだ。
つまりいくら自衛しようとしても、
コンビニで弁当を買ったり外食したりするたびに、
知らず知らずのうちにアメリカ牛を食べさせられている、
という事態は避けられない。
さらに調味料やお菓子や
その他もろもろのものに使われるケースを考えると、
特定の産地の牛を避ける方法など、
まったくと言ってよいほどない。

もともとBSEは、
家畜の飼料である肉骨粉によって広がった病気である。
それも、感染の危険が指摘され
自国での販売が禁止されたイギリスの業者が、
販路を求めて輸出に励んだ当然の結果として、
世界中にまき散らされたものなのだ。
人を殺しかねないものをそうと知りつつ売る、という構造は、
19世紀にアヘンを中国に売りつけたのと何も変わらない。
ここにあるのは資本の論理だけであり、
人としてあたりまえの倫理のかけらもない。

覚えておこう。
われわれは今、こういう世界に生きているのだ。
政府の決定だから間違いない、なんて思ってはいけない。

完全に身を守る方法はないけれど、
せめてしっかり目を見開いて、
何が行われているか、
自分の目ではっきり見届けようじゃないか。