無知の涙

 

中国で覚醒剤を持ち出そうとして
捕まる日本人が急増しているという。
新聞によれば、
とうとうその中の一人に死刑が言い渡されたらしい。

基本的に、麻薬を売ろうなんていう連中は
死刑になっても構わない、とぼくは思っているのだが、
ところが、記事をよく読んでみると、
話はそれほど単純ではないのだった。

昨年つかまった13人はみな、
会社を退職した人、失業した人、ホームレスで、
誰か知らない人に何十万円かの謝礼で
覚醒剤を持ち出すように頼まれた、というのである。

毎日自転車いっぱいの空き缶を集めて、
やっと何百円かを手にしている彼らだもの、
飛行機に乗って帰ってくるだけで
何十万ももらえると聞けば、
ついその気になってしまうのも無理はない。

彼らは、中国の麻薬探知機が高性能で、
簡単にすり抜けられるものではないことも、
見つかったら死刑になりかねないことも、
もちろん知らされてはいなかった。

簡単な割に報酬が多いとは思ったろうが、
それはすごく危険な仕事だから、ではなく、
ちょっと法律に反しているから、
くらいにとらえていたに違いない。

もともと彼らは
ろくに法律の保護を受けていないから、
法律を守ろうという意識は薄い。
職をくれるわけでも、
身の安全を守ってくれるわけでもない国家の法律を、
何で律儀に守ろうとするだろう。

中国の皆さん、
捕まった連中はちょっと愚かで、
ちょっと小ずるかっただけなのだ。

だから、せめて、
死刑にするのだけはやめてくれ。
ほんとうに悪いヤツは、
そこの無職のショボイおっちゃんじゃないことくらい、
すっかり分かっているんだろう。
お金がなくて国選弁護士しか雇えないような
そのおっちゃんが、
どうして組織的大犯罪の首謀者になどなれるだろう。

ホームレスのおっちゃんが、
海外で覚醒剤を仕入れるルートを知っていて、
大量に買い付ける資金があって、
そいつを売りさばく方法を持っているかどうかなんて、
ほんの子供にでも分かることだ。

どうせろくでもない連中だから、
見せしめにするにはちょうどよい、
とでも思われているのなら、
それじゃあまりにかなしいじゃないか。

政治的な駆け引きのあげく、
国に見捨てられて死んでいくというのなら、
それじゃあまりに哀れじゃないか。