すごいなー、田中さん。

 

 

 

ひ弱で優柔不断で頭が悪く道義心のない怠け者であるはずの日本人が、あの世界一の権威を誇るノーベル賞を一挙にふたつも取ってしまった。なんと素晴らしいことだろう。
とくにまだ43歳という田中さんの受賞は痛快ですらある。大学院にすら行っていない民間企業の技術者がそれだけの能力を持っていること自体はさほど驚くことではないのかもしれないが、そういう目立たないところですごい研究をしていた人を、きっちりと「発見」し、推薦する人がいたというところがとても嬉しい。

それにしても、灯台もと暗しというか、預言者は故郷には受け入れられないというか、田中さんの所属する会社は、彼の大発見に対して直接には1万円だか2万円だかの報奨金を払っていただけだという。まあ、これはこれでいい。
田中さんだって明日の暮らしを心配しながら自宅の台所で実験していたならこんな発見はあり得なかったのだし、彼の研究は、会社が太っ腹にも累計何千万という給料と、最先端の設備と情報に触れさせてくれたからこそ実ったものなのだ。
だからたとえ報奨が1万円ぽっちだったとしても、それは決して不当な搾取などではなく、きっちり帳尻のあった理屈の通ったものだと思う。もともとサラリーマンというものは、こういうローリスク・ローリターンの世界に生きているものなのだ。

むしろぼくがこの件に関連してちょいと気に食わないのは、ノーベル賞という外からの評価を示されたとたん、やれ社長賞以上の報奨金を払うだの、やれ主任から一気に役員待遇に破格の昇進をさせるだのという動きが出てきたことだ。
田中さんの研究がすごいことくらい、当の会社がいちばんよく知っていたはずだ。余暇に書いた小説で文学賞を取ったというわけではないのだし、会社はその研究に基づいた計測器を作って売っていたんだから。
とっくに知っていたことを外から指摘されてはじめて評価し直すという図式をここでも見せられて、官民を問わず、わが日本はほんとうに外圧に弱い国なのだなあ、と改めて思い知らされてしまった。