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わが家の隣には、バアさんが住んでいる。
バアさんちは旧家で、わが家も昔は随分世話になったらしい。
そのせいか、バアさんはわれわれと話すとき使用人に対するような口の利き方をする。
バアさんの家はナリこそでかいが、何代か前にすっかり没落していて、今ではそこらの貧乏所帯に過ぎない。
最近は少し羽振りがよくなっているが、町内でも有数の金持ちであるわが家とは比べるべくもない。
ところでバアさんは、わが家を目の敵にしている。
本当に目の敵にしているのか、何かと口実をつけてたかろうとしているのかは知らないが、昔のことを何度でも持ち出して嫌みを言い、やたらとわが家のすることに口を出す。
つい二週間ほど前も、とうちゃんが仏壇に線香を上げたら途端に怒鳴り込んできた。
それだけではない。そのあとにいちゃんが「船の引き揚げのこととかまあいろいろ相談すべえ」ってバアさんの家を訪ねたら、相談なんかそっちのけで、ひどいことを言い散らされてしまった。
バアさん、どうやらこんなことを言ったらしい。
あんた、いったい仏壇を拝むとはどういう料簡だ。ええ?
自分の家の仏壇だから勝手に拝んでいいってもんじゃないよ。
その仏壇にはあんたの爺ちゃんの位牌が入っているんだろう?
あんたんとこの爺ちゃんには、わたしゃ若い頃そりゃひどいことをされたものさ。
そんなひどい人間を拝んでいるってことは、今でもあんたはわたしに悪意があるんだね。
隙があったらもう一度わたしをひどい目に合わせようって企んでいるんだろう。まったく油断も隙もあったもんじゃない。
あんたの爺さんのしたことを少しでも済まなく思うんだったらね、誠意を見せてほしいもんだね、誠意を。
はっきり言っておくけどね、カネを持ってくりゃそりゃ受けとるけどね、あんたがジジイの仏壇を拝むなんてことは、わたしゃ絶対に許さないよ!絶対許さないからね!
ふう、バアさんとは、もうこんなことを50年以上もやっているのだ。
バアさんを黙らせるには、いつものように平謝りに謝って、お小遣いでも握らせるしかないのかなあ。
でもさ、バアさんがなんて言うか知らないけどさ、わが家が人手に渡らず済んだのも、こうして豊かな暮らしができるのも、ひとえに爺ちゃんたちのガンバリのおかげなんだ。
爺ちゃんたちは外ではひどいこともしていたようだから、ご近所では確かに評判が悪い。でも、わが家にとっては、とても大事な人なんだよね。
近所にだって、旦那のおかげで一家を構えることができました、って言う人もいるし、あの頃の爺ちゃんたちがしたことを、今の基準で簡単に断罪するってのはおかしいんじゃないかなあ。
だから線香くらいは、と思うんだけど、とうちゃんが仏壇に向かうと、となりのバアさん、それがどうしても気に入らない。 向こう隣と一緒になって、いつも大騒ぎだ。
それでもね、しつこく皮肉を言うだけならともかく、今回は「絶対に許さない」なんて言われちゃったから、さすがにぼくも頭にきたね。
許さない、だって?
許すも許さないも、ひとの家のことじゃないか。
ぼくらはバアさんの使用人か?
自分の家の仏壇に手を合わせるのに、どうしてバアさんの許しがいるんだ?
そう思ったら、本当にアタマに血がのぼったよ。
それなのに、みんなはさ、「バアさんを怒らせちゃ大変だ」「秋にとうちゃんが行くまでに、バアさんのご機嫌をとっとかなくちゃ」とか、「だいたいとうちゃんも考えが足りない」「私人としてならともかく公人として仏壇を拝むのは…」とか、そんな話ばかりをしているんだもの。
どっか、ヘンだよなあ。
| CAST |
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| バアさん |
K沢民 |
| とうちゃん |
K泉J一郎 |
| にいちゃん |
K崎T法 |
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