春を告げるもの

 

 

 

朝、家を出たら、ほうほけきょ、と声がした。
あ、ふくろうだ、と嬉しくなって、
足取りも軽くしばらく歩いた。

歩きながら、ちょっとヘンなカンジがしたけれど、
それが何なのか、はっきりしない。

あ、ふくろうじゃないじゃん。
はははは。
ほうほけきょ、だから…。

…こおろぎ?
……こうもり?

しばらく思い出せない。
ちょっと面白かったけど、ちょっと怖かった。

ぼくというものは、
ぼくにまつわる記憶があるから、ぼくだというのに。

そう言えば昔柔道をやっていて、
脳しんとうで丸一日記憶が飛んだことがあった。
あのときも、
自分でない自分がぼくの知らないところで
ぼくの知らないことをしていたような気がして、
しばらく落ち着かなかった。
自分だけがこの世界から離脱してしまったような、
不思議な感覚だった。

それにしても、
どうして出てこなかったんだろう、

ほととぎす。